その夜、私が眠ろうとすると、私の部屋のドアがノックされた。

なんだろう、こんな時刻に…

「どうしたんですか?」

私は扉を開けて、白石さんに尋ねる。

「由良ちゃん、俺、考えたんだ」

ん? 何を?

私は首をかしげつつ、話の続きを待つ。

「ここから元の世界に戻る方法はないかもしれない。だったら、俺たちはここで生きていくことを考えなくちゃいけない」

私は、こくりとうなずいた。

それは、私も考えてた。

ちゃんとこの世界のことを学んで、出来ることを見つけようって。

「じゃあ、由良ちゃんも同じ気持ちなんだね。良かった」

そう言うと、白石さんは一歩踏み出して、私をギュッと抱きしめた。

えっ⁉︎ 何⁉︎

「ちょっ、あの、白石さん⁉︎」

私は後ずさろうとするけれど、白石さんにしっかりと抱きしめられていて動けない。

「好きだよ、由良」

ええー!!

「ちょっと待ってください!
 どうしたんですか⁉︎
 白石さんには恋人がいるんでしょ?」

ほんのひと月前にそう言ってたじゃない。

「いたけど、もう会えないんだ。
 だったら、今、ここにいる由良とそうなっても誰も文句言わないだろ」

そうなっても…って、どうなるつもりなの⁉︎

今まで優しくて紳士だと思ってただけに、この変貌ぶりに驚きを隠せない。

とにかく、逃げなきゃ!

私は、暴れてみるけれど、白石さんの力は想像以上に強くて、逃げられない。

「王様! 国王陛下‼︎ 助けて‼︎」

私は、声を限りに叫んでみる。

「ふっ、そんな声、この広い城で聞こえるものか」

白石さんは、ほんの少し腕を緩めると、左手を私のうなじに添えた。

っ‼︎

キスされる⁉︎

私は、思い切り、身をよじって顔を背けた。

「王様、お願い! 助けて‼︎」

私は、泣きながら叫ぶ。

けれど、目の前には白石さんの顔が迫ってくる。

もうダメだと思ったその時、バンッと大きな音を立てて執務室のドアが開いた。

「由良! どうした⁉︎ 大丈夫か⁉︎」

国王陛下の声!

「王様、助けて! 白石さんが!」

国王陛下の声にひるんだ白石さんの腕をすり抜けて、私は部屋の外へ駆け出した。

国王陛下は、涙に濡れる私をそっと抱き上げてその胸で優しく抱きしめてくれる。

「由良、何があった?」

たった1人、元の世界からの生き残った友人だと思ってた。

まさかあんなこと……

でも、告げ口をするようなことはしたくなくて……

私は、ただ国王陛下の胸で泣いていた。