それから、私たちは、彼の執務室にドールハウスのような部屋をもらい、そこで過ごすことになった。

彼らには、言語も文字もあるけれど、心を通わせたいと思う相手には、どうやらそれらがなくても、その思いを届けることができるらしい。

私たちになぜそれができるのかは、謎だけれど、何か不思議な力がこの世界にはあるのかもしれない。



それから、私は毎日、白石さんと国王陛下の3人で過ごす。

昼間は、彼が執務机に上げてくれるので、そこで彼の仕事を眺めつつ、彼らの文字や言葉を教えてもらう。

夜は、国王陛下は寝室へと戻り、私は白石さんと隣り合わせの部屋で眠った。



ここへ来てひと月ほど経つと、白石さんの骨折も完治し、動けるようになった。

ここで処方された薬には、どうやら私たちの元の世界より早く怪我を治す効能があるらしい。


私は、心配しているであろう両親のことを思うと、1日も早く元の世界に戻りたいと思う一方、その手立てが見つからない以上、戻れなかった時のために、この世界のことを学ばなければいけないと考えるようになった。

そのため、忙しい国王陛下に無理を言って、言葉を教わったり、視察に連れて行ってもらったりした。

「国王陛下、あれは何ですか?」

「ああ、あれは医療院だ。病気や怪我をした人を治すところだよ」

国王陛下は、私のつまらない質問にもいつも優しく丁寧に答えてくださる。

「国王陛下、あの白い塔は何ですか?」

私は、白い尖塔が青空によく映える塔を見て尋ねる。

「ああ、あれは神殿だよ。神に感謝し、神の恵みを受け取ることができる」

教会みたいなもの!?

「神の恵みって何ですか?」

そういえば、この世界の宗教については、まだ聞いたことない。

「間もなく、釣鐘草(つりがねそう)が咲く季節になる。釣鐘草の花を一輪手にして、月夜に神に祈ると、神がその願いを聞き届けてくださる者の捧げる花の中にだけ、聖なる雫がひとしずく湧き出すんだ。その雫を飲み干せば、神はその願いを聞き届けてくださる」

へぇ…
迷信だろうけど、なんとなく信じたくなる素敵なお話。

私は、覚えるともなく、その話を胸に城へと戻った。