私は、ある考えを試してみたくて、一つ深呼吸をする。

「あの! 今、出ていくので、揺するのをやめていただけませんか?」

心を落ち着けて、日本語で口にする。

彼らの言葉が分かる以上、こちらの言葉も通じるかもしれない。

わずかな期待を抱いて発したその言葉は、外にいる彼らにも届いたのか、機体の揺れが、ピタリと収まった。

「行きましょう」

私は、骨折している彼に肩を貸し、先程の扉へと向かった。

その外側には、床の続きのように大きな手が添えられていた。

「おいで。怖くないから」

私は、またひとつ深呼吸をして、その手のひらに足を踏み出した。同じように白石さんも。

すると、その手はゆっくりと下がっていき、その巨人胸元まで下りて止まった。

「かわいいなぁ。君たちは妖精かい?」

微笑む彼は、とても優しげに見える。

信じてもいいんだろうか?

彼は、私たちをその手でそっと包み込むように胸元に抱くと、

「あとは、任せた!
 帰るぞ」

と言って歩き始める。

見回すと、そこには数十名の巨人たちがいて、そのうちの数人が彼に付き従って歩き始めた。

私たちは、落ちるのが怖くて、ただ無言でじっと彼の手の中にいることしかできない。

しばらくして、荒野を抜けると、美しい街並みが見えて来た。ただ、サイズは想像を絶する大きさだったけれど。

彼が闊歩するその街並みの先には、さらに大きな城がそびえ立つ。

私は、思わず、息を飲んだ。

ぅわぁ!

イギリスにもお城はいくつもあり、何ヶ所か観光にも行った。

けれど、そのどのお城よりも大きくて立派だ。

彼は、迷うことなくその城へと向かい、彼の姿が見えた途端に城門が大きく開く。

衛兵たちが最敬礼で彼を出迎える。

これ、もしかして、彼のお城ってこと!?

彼が城内に入ると、初老の男性が出迎える。

「おかえりなさいませ、国王陛下」

この人、王様なんだ!

「ああ。ルネ、見ろ。
 イヴォンの不審物で妖精を見つけた」

ルネと呼ばれた男性は、国王の腕の中にいる私たちを見下ろし、眉をひそめる。

「国王陛下自らそのように手を触れて、万が一何かあったら…」

私たちにとって、彼ら巨人が恐怖なように、彼らにとっても、私たちは未知の生物なんだ…

「大丈夫だ。彼は、俺の顔を見た途端に逃げて隠れた。何かするようなら、最初に攻撃するはずだし、何より通わす心を持っている」

そう言うと、優しい笑みを浮かべて私たちに視線を落とした。

「まだ名前を聞いてなかったな。お前達、名は?」

そう尋ねられて、私は白石さんと、顔を見合わせた。

平岡 由良(ひらおか ゆら)です。由良と呼んでください」

私が先に答えると、白石さんも続く。

白石 悠(しらいし ゆう)です。悠と呼んでいただければ…」

それを聞いた国王は、顔を上げて、ルネさんに視線を向ける。

「な? 大丈夫だ」

そう言って、彼はそのまま奥の部屋へと入る。大きな執務机に私たちを下ろすと、ことの詳細を尋ねた。