館内に入ると、最初に細くて長ーいエスカレーターで、一気に最上階へ昇る。

 エスカレーターには私が先に乗った。

 護は、私のすぐ1ステップだけ後ろに立った。

 ちょっと、ちょっと、顔が近いんですけど…

「うわー、これ、やべえ…」

 護が私の耳元で、小声で言った。

「…キスしたくなる」

 そう言って、護は自分の口を、片手で押さえた。護の顔が瞬時に赤くなるのが見えた。

 自分で言っておいて、そこ、照れないでっ。私までつられて照れてしまうじゃない!

 きっと私の方が、護よりももっと赤くなっているはず。今、私の顔は、ゆでダコみたいになってしまっていると思う。

「っ!! ならない、気のせいっ!」

 私は首をブンブン横に振って、正面だけを真っ直ぐ向いた。

 1段、ステップを登ってしまいたいような、登りたくないような…。

 でも、天井から、キスをしている2頭のイルカのボードなんかが吊り下げられていて、はやし立てられてるような気分になる…。

 恥ずかし過ぎて、耐え切れず、ゆっくり、1段だけ登った。

 でも、登ったことを、護が気にしないでくれるといいな、とも思った。