みんな夢中になっていた、あのとき、1人の投げたボールが、運悪く玲奈の顔に思いっきり当たってしまった。

 玲奈は顔を両手で押さえて、うずくまった。

 みんなが『大丈夫?』と駆け寄る中で、佐藤君は『みんなはバスケ続けてて』と言って、玲奈を運動場の脇に連れ出した。

 佐藤君は、誰にも玲奈を近づけたくないように見えた。自分1人で玲奈のことを守りたいみたいだった。

 玲奈も、みんなから離れて佐藤君と2人になると、ようやく『痛かったー』と泣き始めた。

 佐藤君は、ポケットからミニタオルを取り出して、玲奈の涙を優しくぬぐった。

 その瞬間、私は、佐藤君と玲奈だけの特別な空気を感じた。

 もし私にボールが当たっていたら?

 佐藤君は、みんなといっしょになって、『大丈夫?』って言いながら、私を囲むだけだっただろう。

 顔面ボールは痛そうで、かわいそうだった。

 でも、その一方で、私は玲奈がうらやましくてたまらなかった。