私は人通りの少ない、廊下のすみっこに移動した。

 村田君も私の後をついてきてくれた。

 ここならいいかな。

 私は足を止めて、村田君の方を向いた。

「再来週末のことなんだけど…」

 ううっ、村田君の笑顔は、ますます大きくなった。

 でも、言わなきゃ…

「やっぱり、ごめんなさい…私、行けない」

「どうして? 都合が悪い?」

 村田の眉が下がる。

 ウソも方便っていうことわざもあるんだし、ここは『都合が悪い』って答えてしまえば簡単な気がする。

 でも、別な日ならいいってわけじゃない。

 のらりくらりするのは、よくないよね。正しく言うべきだよね。

「そうじゃなくって…」

 冬だけれど、換気のために2組の教室の窓は開いている。

 視界のすみに護の背中が入った。

「私、好きな人がいるから、他の男子と2人きりでは会えないの。最初に誘ってくれたときに『都合が合えば…』なんて言っちゃって、本当にごめんなさい」

 まるで自分じゃない、別の誰かがしゃべっているみたい…。

「…『誰?』って聞いてもいい??」

 無意識に、目の焦点が護に合う。