お母さんは窓の外を見上げた。

 すっかり暗くなった空に、月が光って見えた。

「お母さんは、子どもの頃、護君のひいおじいさんによく遊んでもらったの。それこそ、玲奈が護君のおじいさんに遊んでもらったみたいに。公園で縄跳びを教えてもらったし、映画に連れていってもらったことだってあるわ…」

 お母さんは、そっと涙をぬぐった。

「楽しかった思い出ばっかり浮かんでくるのに、逆に悲しくなっちゃう」

 護のひいおじいちゃん…私が物心つく頃には、もう要介護の状態だった。なので、私は護の家に遊びに行っても、ほとんど話をしたことがない。

 それでも、仏間に置かれたベッドの上から、私と護が遊ぶ様子をニコニコ眺めていたのを思い出す。

 最近は入院していることが多くて、ほとんど見かけていなかった。

 護は今、どんな気持ちでいるんだろう。

 私の胸の中で、黒くて重いものが、徐々に大きくなってきて、しまいに苦しくなった。

 あれだけ大騒ぎしていたはずなのに、そのとき、デートのことなんて、これっぽっちも思い出すことはなかった。