女だと思っていた友人が男だったなんて、しかも新しい婚約者になるなんて、誰がそんなことを予想しただろうか。

 つつがなく婚約発表が終わり、わたしはシーリンの部屋にお姫様抱っこで運ばれてきたところだった。

 最初に出会った時のように――まるで壊れ物のように、彼はわたしを扱ってくる。

「スピカ、私が男だって打ち明けなかったこと、怒っている?」

「どうして教えてくれなかったの?」

「最初は気づいてなさそうだなって、面白がってたんだけど……だんだん言い出せなくってね。黙っていて、本当にごめん」

 真剣な瞳でシーリンが謝罪してきた。
 だからわたしは首を横に振る。

「あなたにドキドキしていたから、男だってわかって安心しちゃった。むしろ綺麗な顔だからって、シーリンを女性だと決めつけたわたしが悪かったの……あなたの表面的な美しさしか見てなくって、デネブと何も変わらない」

 そう言うと、彼はくすりと笑った。

「君のそういう反省できる素直な点が美徳だよ。ねえ、スピカ改めて聞くけど――」

 私の黒髪を撫でながら、彼は問いかけてくる。

「私が男だったら、スピカは好きになりそうだって言ってくれたよね? ねえ――」

 彼の蒼い瞳が熱っぽい。

「――私と結婚してくれる?」

 わたしはこくんと頷いた。

「――喜んで」

 彼が私の黒髪を撫でてくる。

「私の言った通りに手入れをしてくれてるんだね。すごく綺麗だよ、スピカ。君が真面目な女性で本当に良かった。僕はすごく幸せだよ」

 そうして彼が私の身体を抱き寄せてきた。
 逞しい胸板に、なぜ今まで異性だと気づかなかったのだろうかと不思議に思う。
 
(美人な顔とのギャップがすごい……)

 ドキドキしているわたしに向かって、シーリンはくすりと笑う。

「医師に上半身を診てもらった時に、君と似たような反応をした者がいたね。将来的には宰相だけど、騎士になるために騎士学校に通って鍛えてたから、体つきは結構男らしいんだ」

 綺麗な蒼い瞳でこちらを覗いてくる。

「スピカ……ずっと女性だと思われていたから、君に断られるんじゃないかってずっと不安だったけど――君が受け入れてくれて、本当に良かった」

 すごく幸せそうに彼は語り掛けてくる。

「シーリン……いいえ、シリウス」

 女性みたいな顔立ちなのに、シーリンはどんな男性よりも男性らしかった。
 だけどいつものように、とことんまで優しい手つき。
 
 わたしを抱きしめ、愛おしそうにシーリンが告げてくる。

「心優しい君が僕の手でどんどん綺麗になっていって、すごく嬉しかったんだ。これからも大切にするよ、私の輝ける星スピカ」