舞踏会当日、わたしはシーリンと共にセレーネ公爵家に来ていた。
 どうやら次期当主の婚約発表もあるらしく、会場は大層にぎわっている。

「まさか、シーリンがセレーネ公爵家に所縁のある人だったなんて……」

 セレーネ家と言えば、オルビス・クラシオン王国の二大筆頭貴族だ。白金色の髪に蒼い瞳を特徴に持っていて、とても見目麗しい家系の人々である。歴代の宰相も、このセレーネ家から排出されるのだ。

(でもまさか……そんな二大貴族の一員が、髪結いをしているなんて思わないじゃない)

 すごい人物が友人だったのだと、なんだかすごく落ち着かない。

 舞踏会の会場には、たくさんの貴族が来ていて、わたしはすごく緊張してしまった。
 しかも、やたらとじろじろと視線を向けられている気がする。
 ドキドキするわたしに、シーリンが耳元で囁いてきた。

「スピカ、大丈夫だよ。私が一緒なんだから」

 彼女にそう言われると、不思議と心が落ち着いてくる。

(本当に……シーリンが男性だったら良かったのに……)

 そんなことを思ってしまう。

(ありえない、夢物語だわ……)

 そうして気を取り直して、二人できゃっきゃっと話していると、すっと人影が伸びてきた。

「スピカ」

 声を掛けてきたのは、元婚約者のデネブだった。

「デネブ……」

「こちらに来てくれないか、スピカ?」

「あ、スピカ!」

 そうしてシーリンの元から奪われるようにして、デネブに裏庭へと連れて行かれたのだった。