この重い水瓶を持って山を降りるのか、と憂鬱な気持ちになるツヤだったが、「ツヤ、あれ見て」とカスミが嬉しそうに言う声を顔を上げる。すると、心の中にあった憂鬱な気持ちは一瞬でかき消されてしまった。

日が昇り始め、世界が夜に別れを告げる。温かな光が少しずつ姿を見せ、大地を照らしていく。ツヤとカスミは朝日をしばらく見つめていた。

「綺麗……」

もっと色んなことを考えていたはずだったのだが、ツヤの口からはその一言しか出せない。言葉にしようとしてもうまくまとめることができないのだ。

「たまにはこうして空を見るのもいいでしょ?」

カスミが言い、ツヤは頷きながら水瓶を持つ。二人は水を溢さないよう慎重にしながら家へと帰った。

家に帰ると、おいしそうな匂いが二人の鼻腔をくすぐる。家の中に一歩入ると、朝ご飯を作りながら白い髪を束ねたアサギが「おかえり!」と言った。

「母さん、手伝う」

「私も手伝うわ」

ツヤとカスミは手を洗い、アサギのいる台所に立つ。アサギは「ありがとう」と微笑み、二人に仕事を与える。