「ツヤ、記憶が戻ったの?」

ギルベルトが訊ねると、ツヤはまだ涙を流しながら頷く。そしてゆっくりと、千年前に起きた出来事を話し始めた。



ツヤの故郷は遥か東にあるケレト。周りを山で囲まれたのどかな村で生まれ育った。発展し、賑わっているとは言い難い村だが、村人同士仲が良く、平和な村である。

そんな村の外れにツヤの家はある。急勾配の屋根が特徴的な茅葺家屋である。風の向きを計算して建てられているため、夏は涼しく冬は保温されて快適に過ごすことができる。

この家に住んでいるのは四人。教師をしている父のミツヒデと、料理が得意な母のアサギ、そしてツヤとツヤの姉であるカスミだ。

ツヤとカスミの朝は、日が昇る少し前から始まる。

「ツヤ、起きて。薪を拾いに行きましょう。あと水も井戸から汲んでこないと」

体を揺さぶられ、目を開けると真っ白な長い髪を揺らし、薄紫の着物を着たカスミが微笑む。ツヤはあくびをしながら「は〜い」と返事をし、温かい布団の中から出た。