イヅナが止めなくてはと走り始める。全てがスローモーションのように思えた。ゆっくりと白い首に牙が突き刺さっていく。イヅナの瞳から光が消えてしまいそうになる。

「ツヤさん!!」

枯れた声で大声で叫ぶ。ツヤは一瞬顔を顰めたものの、大人しく吸血鬼に血を差し出していた。刹那。

「うっ……!ガァ!!」

おいしそうに血を飲んでいた吸血鬼がツヤから牙を抜く。その顔は苦しげに歪んでいた。

「えっ……」

イヅナが戸惑った次の瞬間、吸血鬼はその場に倒れる。

「血を飲んで倒れた?ツヤさんの血には妖を倒す力まであるの?」

「いや、それはない。あたしが受けたのは人から鬼に変わる実験だけだ」

引き篭もっていたのが嘘のように、記憶が戻る前と変わらない態度でツヤが堪える。まともに答えてくれるのはこれが初めてだ。イヅナはそれが嬉しく、このような状況なのに泣きそうになってしまう。

「……この吸血鬼、死んでいない」

ツヤが驚きながらそう言ったことで、イヅナの涙はまたしても引っ込んでしまった。