「話さなくていいなら、自分の中にしまっておきたいことだってあるよね」


 ーーほんとは、ずっと話したかったんだ。

 この声は、なに?

 どうして勝手に浮かび上がるのだろう。とても苦しそうで、切ない声。

 まるで、心の奥深くを覗いているみたい。

 ソファーがきしむ音と一緒に目が触れて、彼の手が私の顔へ伸びる。

 魔法をかけられたみたいに、手足が動かなくて。髪を撫でられた部位から熱が広がっていく。


「髪、乱れてる。思ったより、風があるね」


 開きかけた唇は動きを止めた。

 優しく触れる指が髪から頬へ流れて、軽く口の端を押さえる。


「僕のこと、嫌いにならないでね」

 同じ音がする。

 何もない場所で、ひとり孤独を感じる淋しさ。胸が打ちひしがれる切なさは、想像と似ていた。


「嫌いになんて、なるわけないよ」


 よかったと、湊くんは笑みを浮かべる。

 いつもと変わらない表情にホッとするけど、もわりとした綿は心に絡まったまま。

 取り除こうとしても、思うようにさせてくれない。

 でも大丈夫。たとえ、湊くんに知られたくない秘密があったとしても、私は受け入れられると信じていた。