湊くんの言葉は魔法みたい。

 たった一言で、一瞬で、ふわふわと雲の上まで連れて行ってくれる。

 緊張で固まっていた手や足も、嘘みたいにほぐれていく。

 別の顔があるのだとしたら、天使か魔法使いだと思う。


 ーーだから、さよならだね。

 また、声が沸いてきた。とても寂しい声色で、胸が締め付けられる。

 同じ現象は、これまでにも何度かあった。実際に耳で聞いた言葉もある。

 もし、ただの想像じゃなかったら……。

 ふわりと風が吹いた。夏の日に似合わない、さらっとした空気。

 窓を開けた湊くんが、私の隣へ腰を下ろす。


「結奈ちゃんは、誰にも知られたくない秘密ってある?」


 静かな部屋に、ぽつりと落とされた言葉。それはとても穏やかで、きっと何気なく出たものなんだろう。

 特に深い意味なんてない日常会話のひとつとして。


「秘密ってほどのものは……ないけど。知られたくないことは、あるかな」


 小学生の頃に嫌がらせを受けていたこと。それが引き金になって、男子と話すことが苦手になったこと。

 隠したい過去と言えば、そうだと思う。