頭に浮かんだことを率直に言ってしまったのだと思うけど、下津くんが何度も(まばた)きをしながら手の動きを止めている。


「えーっと、どこから突っ込んでいいのか分かんないけど。とりあえず、御曹司って? もしかして、湊なんかしゃべった?」


 かなりの低音が部屋に響く。


「はっきりとは言ってないよ。でも、それらしい事は言ったかな」

 頭をくしゃりと掻き混ぜながら、長いため息を落として。


「父親が社長ってだけで、別に御曹司じゃないから。俺、継がないし。てゆうか、缶コーヒーくらい普通に飲むでしょ。今の缶おいしいから」

 珍しく気まずそうな表情をする下津くんに、あっけらかんとした比茉里ちゃんが呟く。


「召使いが高級なコーヒーを淹れてるイメージが頭に焼き付いてて」

「その偏った知識と妄想、一旦捨てようか」

「花男の道○寺とか、謎ディの○山とか」

「漫画と一緒にすんなっつの」


 全人類の女子が好きだと公言したとかしないとかで、甘い言葉ばかり吐き捨てていると噂の下津くんが。

 こんな態度をするなんて、意外だった。


「仲良いね、君たち」

「仲良くないっ!」と否定するタイミングまでばっちりだ。