電車の速度が落ちてくると、湊くんは通路側へ体を向けた。反対席に座る女子をじっと見て。

 頬を染めながら、彼女たちは驚いた表情をする。いきなり見つめられたら、無理もない。


「あの子、僕の大切な友達なんだよね。あんな辛そうな顔みたくないから。させないでくれる?」


 女子たちは、「え、えっと」と気まずそうに口を(つぐ)んだ。


「そうそう、おしゃべり丸聞こえだったよー。俺ら、結奈ちゃんみたいな心の綺麗な子としか仲良くしたくないから。もし友達になりたいなら、まずそのカビ生えた心を洗ってから出直して来てねー」


 湊くんの肩に腕を回して、冷たい声色が乗内に落とされる。

 一瞬言葉を失くした女子は、「あっち行こう」と足早に前の車両へ消えていった。


「結奈ちゃん、じゃあまたねー」

「気を付けてね」


 何事もなかったように、彼らは手を振って去って行く。


「あ、ありがとう! またね」


 空気の抜けたような音と共に、電車が停車する。

 後ろ姿が見えなくなるまで、私はそっと見つめていた。

 かばってくれた。

 聞こえないふりをすることだって、出来たのに。私のために怒ってくれた。

 嫌味を言われた事実はなくならないのだけど、心は嘘のように温かい。