翌日のまだ薄暗い空の中。いつもより早く目が覚めた。
 日が昇ってからも、胸がそわそわと落ち着かない。

 タイミングを逃した朝の電車、昼休み、常に心ここにあらず。

 放課後の段取りや台詞ばかり考えてしまって、大好きな音楽の授業も集中出来ず。

 藤波くんは4組の文系クラス。理系と文系の普通科では階が別れているため、いつ教室を出て帰ってしまうか分からない。

 待ち遠しくて、だけど訪れて欲しくない下校のチャイムが鳴った。

 少しして教室から上の階へと足を急ぐ。
 今日に限って先生の話がやたら長く、いつもよりホームルームの終わる時間が遅かった。

 息を切らしながら4組の前に立つ。
 目を凝らして藤波くんを探したけど、彼の姿は見当たらない。もう帰っちゃったのかな。

 周りから受ける視線にうろたえながら、私は足早に4階を去った。

 文系は派手な生徒が多い。あそこの空気を吸うだけで緊張の目眩(めまい)がする。

 渡せなかったと肩を下げる反面、少しホッとしていたりして。

 下駄箱からローファーを取り出そうとして、藤波くんが玄関を出て行く後ろ姿が目に入った。

 心の中で「待って」と叫びながら慌てて彼の背中を追う。波打つ鼓動を高鳴らせて、徐々に距離を縮めていく。