「何かあるとしか?」


 頭上から復唱する声が降って来た。女子を惑わす甘ったるさを持て余して。

 下津くんの隣には、湊くんもいた。陰口を言っていたみたいで気まずくなる。違うのに。

 徐々に下がる視線の先に差し出された袋。月曜と木曜限定販売のカリふわメロンパン。


「これ、あげる。コンテストお疲れ」

「……あの、でも」


 受け取れずに戸惑っていると、湊くんの手も伸びてきて、持っていた袋が比茉里ちゃんへ向けられた。


「良かったら、恵比寿さんもどうぞ」

「えっ、うそ! いいんですか?」


 控えめな台詞を口にしながら、袋をしっかり掴んでいる。貰っちゃっていいのかな。

 なかなか手に入らない人気商品なのに。

「ほら、早く」と()かされて、私もメロンパンを遠慮がちに取る。

 お礼を言う間もなく、2人は颯爽と去って行った。

 さっきまで眉間にしわを寄せていたことを忘れたように、比茉里ちゃんは目を輝かせている。

 ひとまず胸を撫で下ろすけど、そわそわと心は落ち着かない。

 胸の奥で何かが絡まっているような気分になるのは、どうしてだろう。

 ひとくち頬張ったメロンパンは、ほろっと甘くて優しい味がした。