実技室を出て、会場の扉前でみんなと別れた。

 湊くんのココアトークを開く。既読は付いているけど、返事はない。

 お姉ちゃんに終わった報告をして、正面入り口へ向かった。


「結奈ちゃん」

 聞き覚えのある心地良い声が聞こえた。

 門の前で足を止めて、そんなはずはないと思いながら振り返る。胸の高鳴りを感じながら、ゆっくりと。

 湊くんが立っていた。七部に(まく)られた白シャツに細身のデニムズボン。爽やかな匂いがする。


「どうして? ほ……湊くんが?」


 コンテスト会場の場所は教えていないはずなのに。


「すぐそこに用事で来てて。たまたま通りかかったら、スイーツコンテスト会場の看板が出てたから。もしかしたらと思って」


 ああ、神様。こんな少女漫画のような偶然があって良いのでしょうか。

 だけど、驚きと緊張で何も台詞が出てこない。

 画面を通した文字でなら、少しばかり積極的に会話が出来るのに。