「ついて来てるって分かってたけど、気付かないふりして誘導しちゃった」



 気づかれていた。
 今までの自分の行動を思い返すと、恥ずかしい。穴があったら入りたい。

 星名くんがフェンスの前で足を止めた。おいでと手招きをされて、ぎこちない足は彼の隣に立つ。


「ここ、空気綺麗でしょ。ひとりになりたい時、たまに来るんだ」


 ふと藤波くんの顔が脳裏に浮かぶ。『いらない』と、返されている紙袋。
 言葉の端を取って、悪い事を想像してしまう。


「……あの、ごめんなさい」


 ひとりの居場所に踏み入ってしまった。

 だけど、穏やかに笑う星名くんがあまりに優しくて。


「今日は、ふたりだからいい空気なのかな」


 遠くを見つめる彼の横顔が空の青さと重なって、とても澄んで見えた。

 温かくて、ふわふわと包み込んでくれる。
その空気は私に小さな勇気を与えてくれる。


「良かったら、貰って下さい。星名くんのために、作りました」


 震える声を必死に抑えて。

 きっと、星名くんなら大丈夫。受け取ってくれる。