ふわふわとした微睡(まどろみ)の中。
 微かに聞こえる、誰かが結奈と名前を呼ぶ声。


 ーーだから、さよならだね。

 とても寂しい音がして、切ない香りが胸を締め付ける。

 知っている気がするのに思い出せない。
 この人は、誰だろう。


「……奈ちゃん、結奈ちゃん」


 パチンッと何かが割れたような音がして、意識が現実へ引き戻される。

 短歌が書かれた黒板に、机の上には真っ白なノート。授業終了のチャイムが流れ、私の思考回路は停止していた。

 ここのところ練習で寝不足が続いていたから。あろうことか、古文の時間に眠ってしまったらしい。

 しかも、始めから終わりまでごっそりと。

「よほど良い夢だったんだね」と、比茉里ちゃんに笑われる始末。
 どちらかと言うと、良くない夢だったんだけどな。

 最近、不思議なことがよく起こる。
 胸の奥から想像の声が上がってきたり。勝手な妄想だと思っているけど、そうじゃない気もしていて。