隣から大きなため息が聞こえた。
 絶対に飽きられてる。怖くて顔を上げられない。


「そんなあからさまに避けないでくれる? さすがの俺でもヘコむわ」

「ご、ごめんなさいっ! 決して、悪気があったわけでは……」


 またやってしまった。失礼な態度ばかり取って、人として最低だ。


「やっとこっち見た。俺で良ければ、聞くよ?」

「えっ、えっと」

「思いつめてることあるでしょ? 気休めにはなると思いますが、どうでしょうかお嬢様」


 眼鏡のフレームを持ち上げながら、執事を真似た口調。やけに違和感がなくて思わずクスッと笑みがこぼれた。

 演技を続けたままなのか、弧を描いたような柔らかな目に緊張の糸がほぐれていく。


「……瀬崎さんって、知ってる?」


 ハッとして口元を押さえた。
 聞くつもりなんてなかったのに、無意識に出てきた名前。


「4組の瀬崎沙絢ちゃん? 美人で有名だから知ってるけど、あの子がどうかした?」


 車両が揺れるたび、私の胸も高波を打つ。
 星名くんの友達から、美人という単語を聞くと不安になる。

 誰もが思うわけだから、星名くんも思っているはずだよね。モデルを頼むくらいだから、なおさら。

 上手く反応が出来なくて、言葉につまった。