放課後の調理室。料理部が作る今日のお題は、想いを届けたい人へ作るお菓子。

 お題を聞いた時、すぐ相手が思い浮かんだ。高校3年間、密かに片想いを続けてきた藤波くん。

 『部活で作ったから』と付け加えたら、受け取りやすいんじゃないかなと思ったの。

 それぞれの調理台から甘い香りが漂ってくる。
 開いていた窓から、部活動中の男子生徒らが顔を覗かせた。


「めっちゃいい匂いする! (あまね)、それ俺にくれよ」


 華奢(きゃしゃ)な体付きをした男子が、女子部長である周さんに声を掛けた。


「残念でした! もうあげる人が決まってる」

「なんだよ、ケチだなぁ」

「あんた美術部でしょ? こんなところで遊んでていいの?」


 短めの髪をさらっとなびかせて、周さんが窓の前に仁王立ちする。


「サボってるわけじゃねぇよ。今、デッサンのモデルを探しに歩いてるんだ」


 小柄だから後輩だと思っていたけど、同じ3年生だったらしい。すみません。

 言い合っている彼の後ろから「どうかした?」と、誰かが顔を出した。