待ち電車に乗り込んでから、しばらく窓の外を眺めている。鮮やかな空はずっと続いているのに、止まったままの景色は退屈だ。

 扉の閉まる音がし始めたとたん、誰かの慌ただしい足音が入ってきた。


「ギリセーフ! あー、結奈ちゃんじゃん」


 女の子をたぶらかすような甘ったるい声に嫌な予感がした。

 勢いよく隣に腰を下ろしたのは、予想通り下津くん。クロスシートで座席が狭いためか、広い肩がこっちの陣地にまで迫ってきた。

 わっ、肩が当たってる!
 他にも空いている席はたくさんあるのに、どうしてここへ座わるの。

 反射的に窓側へ体を避けて、私は眉を潜めた。


「今日、部活休み?」


 膝の紙袋へ目線を落としている。何か勘繰られているみたいで、怖い。


「ちょっと調子悪くて。早退……したんです」

「マジで? 大丈夫ー?」


 ーー人って、そう簡単には変われないからね。

 なに、今の想像の声。

 覗き込もうとする下津くんを、やんわりと拒む。
 顔を背けて、話しかけて欲しくないオーラを醸し出して。足が震えて緊張している。

 さっきの湧き上がって来た声は、間違いなく下津くんだった。どうして勝手に想像してしまうんだろう。