「これから湊くんと会うから。それ、渡してあげるよ?」


 自信に満ちた顔。どこから見ても美人で、私に勝ち目なんてない。

 断る事が出来なくて、恥ずかしくなって、怖くなって、逃げてしまった。

 私だけじゃなかった。瀬崎さんも、星名くんのモデルをしていたんだ。

 スタイルが良くて綺麗で、彼女をモデルにした方が良いのは一目瞭然だもの。

 心のどこかで、期待してたのかもしれない。
 でも違ったんだ。星名くんがみんなに優しいことは、最初から分かってたことなのに。

 少しでも特別なのかもしれないと思った自分が馬鹿みたいで恥ずかしい。


 駅ですれ違う人たちが、ちらちらと私の方へ視線を向けてはすぐ逸らしていく。

 走ったからなのか呼吸が乱れている。肺が苦しくて、右手に握ったままの紙袋に虚しさが込み上げて来て、目の前が霞んで見えた。

 少し勇気を出そうとすると、倍の弱さが押し寄せてくる。

 結局、渡すことが出来なかった。藤波くんに振られた時より、ずっとずっと胸が重い。

 こんなにも体が張り裂けそうで。気持ちを抑えきれなくなるなんて。もう自分に嘘を付けないらしい。


 ーー私、星名くんが好きなんだ。