「本当のことだもん。星名くんも喜ぶね」と、口に手を当てて笑う仕草を見せる。

「なに言ってるのって顔してるけど、耳まで真っ赤だよ。紙袋、ふたつあったもんね」


 まるで探偵みたいだ。私の胸の内をいとも簡単に見透かしてしまう。だけど。


「自信持って」

 彼女の言葉はお守りでもある。

 バニラエッセンスの優しい香りと胸の奥へ染み込んで、小さな勇気に変わっていく。


 鍵の閉まった美術室の前で行き交う人を眺める。放課後はこの辺りの人通りが少ない。
クラフト紙の袋を握りしめる手が汗ばんで来た。

 待っている時間の1分1秒がとても長く感じる。
 大丈夫。以前もスノーボールクッキーを貰ってくれたから、甘い物は苦手じゃないはず。

 そういえば、あの時の感想を聞いていない気がする。口に合わなかったのかな。

 1人の待ち時間は、良くないことを考えてしまう。

 だから、比茉里ちゃんと同じように友達として渡すのだから迷惑にはならない。と、言い聞かせて。

 ふと視線の先に、紺色のハイソックスが飛び込んできた。
 すらっとした細い脚。膝より少し短めのスカート。

 目線を上げて分かる豊かな胸。猫目の下にあるほくろは色気すら感じられる。