「相当嬉しかったんだね。星名くんと話せたこと! あの時の結奈ちゃん、めちゃくちゃ可愛かった」

 下瞼を上げた比茉里ちゃんが、にやにやを作っている。胸の内を覗かれたようで恥ずかしい。

 熱くなる顔を隠すように、彼女の肩を押してコースの前へと()かす。「もう順番来てるよ」と言って。

 毎年、50メートル走のタイムによって、体育祭で行われる団対抗リレーのクラス代表選手が選ばれる。

 走りが得意でない私は論外だけど、運動神経の良い比茉里ちゃんはクラスの即戦力。
 昨年も選手に抜擢されて、陸上部から入部の勧誘もあったとか。

 風のような走りをした比茉里ちゃんは見事というか、案の定クラス代表に選出された。

 その他の種目決めで、私は借り物競争に出場することになった。

 足の速さを求められる競技ではないけど、去年にいたたまれない出来事があって、私にはとても気が重い種目。

 あの事を思い出すと胃がもたれたように先が思いやられるの。甘ったるいとみんなに苦言される匂いに包まれても、気分が悪くなることはないのに。

 コンテストの練習を家に持ち帰ることになって、家族に何を言われることやら。