6月になると、学校全体に気合の色が流れ始める。高校生活最大イベントの1つである体育祭が待っているから。運動はどちらかと言うと苦手。

 だけど今は、昼間のやり取りを思い出してふわふわした気分になっている。

 10日ぶりに、星名くんと会えた。
 テスト期間だったことも影響してか、別校舎である彼を見かけない日々が続いていたけど。

 たった数分の会話だったのに、こんなに心が躍るのはどうしてだろう。

 準備体操の延長で、3年2組の教室に視線を向けた。特進クラスの空間だけ、別次元に見える。


「やっぱりかっこよかったなぁ」

「かっこいい?」


 伸脚(しんきゃく)する比茉里ちゃんと体が近付く。

 一般的な意見で、容姿をさらっと褒めることはあっても、比茉里ちゃんがしみじみつぶやくことなんてないから、少し胸が騒ついた。

「でも中身がチャラそうだからなぁ。残念イケメン感がハンパないよね」

「あっ、下津くんのこと……」


 手首足首を回しながら少しだけ胸を撫で下ろしている。私はてっきり。


「もしかして、星名くんのことだと思った?」

「そそ、そんなことないよ!」

「結奈ちゃんは隠しごとできないよね。私には」


 昔からそうだった。比茉里ちゃんには、なんでもお見通しで。藤波くんの時も、すぐにバレた。

 嘘が下手というのもあるけど、よく見てくれているのだと思う。どんな些細な変化にも気付いてくれるから。