あまり周りを気にしたことがなかったから、全然知らなかった。


「結奈ちゃんは同じクラスの男子しか知らない勢いだよね。あと藤波宗汰」

「語尾に怒りマークが付いてる。同じクラスでも喋ったことない人ばっかり。名前も数人うろ覚え……かも」

「その名無し男子、お気の毒さまだな」


 半ば呆れたような声で、比茉里ちゃんが笑う。

 男子が嫌いなわけじゃない。どう接していいのか分からなくて、緊張して上手く会話が出来ない。

 男子と関わることを避けるようになったのは、小学5年の時に起きたある出来事がきっかけ。

 今思えば、もう少し勇気があったら防げたこと。
 いつも私は逃げてばかりだった。消極的な自分を変えたいと思っていた時、藤波くんと出会った。


「星名くんなら、たぶん慣れる練習に付き合ってくれるよ?」

「ううん、いいの。知らない人だと、余計に緊張しちゃうから」

「もったいなーい」


 校庭を歩く藤波くんを見つめながら物思いに()ける。

 付き合いたい、デートをしたい、そんな大それたことは何も考えていない。
 ただ遠くから見つめていられたらいい。

 振られるくらいなら、ずっと片思いでいい。少し欲を言うならば、話してみたい。それだけでいいの。

 男子が臆病だった私に、恋を教えてくれた人だから。