失恋から救ってくれたのは、星名くんの優しさだった。汚れのない笑顔と温かみのある言葉。

 それは誰に対しても同じように向けられていて、私にとって神様みたいな人だから。


「まだ知り合ったばかりなのに、よく知った口聞けるよね。ちょっと人のこと信用し過ぎなんじゃない?」


 何も言い返せなかった。確かに、星名くんのことを多くは知らない。

 だけど、表面に(にじ)み出る美しさは、心を現していると思っているから。


「率直に聞くけどさ、結奈ちゃんって湊のこと好きなの?」


 ふざけていた時とは違う真剣な眼差しが、妙に緊迫感を与えている。

 星名くんは素敵だと思う。もっと知りたい。
 でもこれが好きという気持ちなのかは、まだ分からない。

 ただ今はーー。


「友達に……なりたいです」


 波打つ胸を鎮ませながら、震えそうな声を振り絞る。これが、今の精一杯。

 鋭かった目付きは、狐につままれたようなぽかんとした顔になっていて。私の頭上へ小さな笑みを向けた。


「だってさ、湊くん」

 振り向いた先に、トイレから戻って来た星名くんが立っていた。

 いつからそこにいたの⁈
 変なこと口走ってなかったよね?

 さっきまでの会話が脳裏をぐるぐると駆け巡っていく。文字の龍が空を泳いでいるみたいに。