「柔らかそうな雰囲気とか。俺の好きな感じだなぁ」

「樹、冗談言ってないで勉強しなよ」


 星名くんは苦笑していた。
 爽やかな優等生タイプの星名くんと、不真面目に遊んでいそうな下津くん。気が合うポイントが感じられない。


「そういえば、次の課題は進んでんの? モデル決めたんだよな?」


 2人が美術部の話題を話し始めた。ドキッと胸が反応する。


「もう描き始めてるよ。意外と難しくて苦戦中」


 ハハッと笑う星名くん。私の頭上には、ハテナの疑問符がぷかぷかと浮かんでいる。


「静物画だっけ。結局何にした?」

「時計の周りにぶどうと洋梨置いて、つると葉を絡めた構成にしたよ。これが果てしなく悩んで」


 ぶどうと洋梨って、『生物』ではなくて『静物』だったらしい。
 勘違いしていたと知って、どこか曇っていた心に日が差し込んだ。

「あれ? じゃあ、モデルの話って……」


 視線に気付いた星名くんは、「えーっと」と気まずそうに視線を下げる。


「鹿島さんに頼んだのは、僕が個人的に描きたかったから」


 頭からボッと炎が出るように、一瞬にして顔は熱を帯びた。


「個人的って、湊くんやらしー」


 わざとらしく口元に手を添えた下津くんが、からかうような口調で(あお)りを入れる。


「樹、いい加減にしなよ。ちょっと、トイレ行ってくる」


 席を立った星名くんの横顔が、少し赤くなっているように感じた。

 余計に恥ずかしくなった私は、気を紛らわせるために参考書のページをめくる素振りをする。この熱い顔を仰いで覚ましたいほどに。