「そんな顔しなくて大丈夫だよ。みんなに言われるし慣れてっから。ねっ、ウワサの鹿島さん」

 にんまりと涙袋を膨らませる下津くんが妙に怖い。


「……あの、噂って」

 ココアトークという連絡アプリで、拡散されているらしい画像が頭に浮かぶ。


「君って、湊のカノジョ? 美術室にふたりっきりで何してたんだろー?」


 への字にしたような目。からかうような口調。完全に楽しんでいる。

 星名くんに迷惑がかかることを言って、この人ほんとうに友達なのかな?


「ただ、話を……」

「マジ? ふたりきりになって、話だけで終われたの?」

「樹と一緒にするなよ」

 意味が分からないよ。他に何があるのか教えてほしい。


「あ、あの。なんとか、止めれませんか? その、拡散」

「無理だね」

 すぱんといい音を出して斬られた言葉。


「キスと一緒で止めらんないよね」


 そして付け加えられた台詞に時間が止まる。
 それなのに頬だけは染まっていくのが分かる。この手の話はどうも苦手で、反応の正解が出ない。


「気にしなくていいよ。僕が誤解解いておいたから。どこまで抑えられたかは、分からないけど」

「あ、ありがとうございます」

「樹は、もう少し考えてしゃべってね」


 呆れた感じに話す星名くんの隣で、下津くんは満足そうな笑みを浮かべている。まだ何か言いたげな口だけど、とりあえずそっとしておこう。