外は闇を抱えるように暗い世界を作っていた。満月が閉ざされた夜の道標になっている。

 閑散とした駅のホームに知れた人影が見えた。以前は気付くと目で追って、今は一番会いたくない人。藤波くんだ。

 緊張で足を硬らせながら、少し離れた位置に立つ。

 いつも早く帰っているイメージがあったけど、今日に限ってこんなに遅いんだ。

 他に誰もいない空間に、やたらと意識してしまう。気まずいと思ってるのは私だけなのかな。周さんが一緒だったら。

 待ち焦がれた電車が到着した。両側に座席が一列に並んでいる。

 やっと緊張から解放された。そう思った矢先のこと。別の車両に並んでいた彼が、こちら側へ歩いてくる様子が窓越しに見えた。

 どうして、わざわざこっちに来るの?

 慌てて席を立ち上がるけど、移動すると変に思われるかもしれないと、また腰を下ろす。

 斜め前に座ると、彼は目を(つぶ)った。
 気にしない方がいいのかな。反対の暗い窓に目を向けたまま何駅か過ぎた。


「次は桜小町〜桜小町駅に停車します」とアナウンスが流れてきた。
 鞄を肩に掛けて降りるスタンバイをしながら、ちらりと藤波くんの方を見ると。


 ーーばっちりと目が合った。

 すぐに視線を戻すけど動揺が隠せない。
 偶然こっちを見ただけ。自意識過剰だよ。