「だって藤波って性格悪そうだもん」


 不機嫌そうな口で、窓越しの彼にベッと舌を出す仕草をしている。

 1年の頃から、藤波くんのことをあまり良く思ってないみたいだった。何かしら理由があるのだろうけど、詳しくは教えてくれない。

 でも、好きな人を(ののし)られるのは正直複雑で。

 藤波くんは、4組の瀬崎(せざき)さんのことが好きだと噂がある。とても綺麗で目立つ子。
 だから余計に釘を刺される。私が傷つくところを見たくないって。


「もっと他の人にも目を向けてみたらいいのに」

「簡単には……、無理だよ」

「結奈ちゃんって、結構男子から人気あると思うんだけどなぁ」

「ないよ、そんなの。男子と話すの……苦手だから」

「じゃあ、王子ならいいんじゃない? 誰にでも優しいって有名だし」


 人差し指が出す矢印の先には、一際目立つ長身の男子がひとり。
 遠目でよく分からないけど、周りにキラキラと星が飛んでいる幻覚が見える。


「王子……って、あの髪が明るい人?」

「うっそ。結奈ちゃん、星名(ほしな)くん知らない? けっこう有名人だよ?」


 特進科クラスの星名(みなと)くんは、王子のような容姿と優しい性格から女子の人気が高いのだと、比茉里ちゃんが熱弁する。

 確かに。彼の周りには、甘いお菓子に群がる蟻のように女子生徒の姿が……。