「大切な人って好きな人とか結婚のイメージが強くて。ウエディングケーキみたいにしちゃいました」


 白い生クリームの上に何種類ものフルーツが並んで、スポンジは本の形をしている。幸せの日記を表現したらしい。


「すごく少女チックで可愛いよ。鹿島ちゃんのは……」


 真っ白な雪が積もる切り株の上に散りばめられた花びら。桃色は愛、空色は哀を連想させている。

 2つが交わる中心部には紫の花が可憐(かれん)に咲く様子を表現した。愛と哀しみから生まれた花を大切にしていきたいと。


「大切な人は、言い換えたら失いたくない人だなって……」


 この沈黙が怖い。抽象的過ぎて伝わりにくかったかな。2人とも黙り込んで見ている。


「ごめんね。やっぱりこれ」

「鹿島先輩、めっちゃ良いです!」

「愛と哀しみが混ざり合って出来た花。希望と絶望の先にある大切な物……か。いいね!」


 心が溶けるようにほっとした。受け入れてもらえるか、正直不安だったから。

 出した要素を上手くまとめて、完成形を作り上げた。

 気が付けば他の部員の姿はすでになく、時計の針は19時を回っていた。
 こんな時間まで学校に残っていることなんて初めて。少し熱中しすぎたかもしれない。