これは想像の音じゃない。現実でされている会話。ちらちらと視線が送られてくるから、きっと私のことだろう。

 もしかして、クッキー事件のことが知れ渡っていたのかな。
 飛び交う楽しそうな笑い声にさえ、体が過敏に反応している。


「……結奈ちゃん、あのさ」

「すごくないよ。ただ好きなだけだから」


 比茉里ちゃんに被さるように、透き通る心地よい声が近付いてきた。


「完成したら、1番最初に見せてね! 湊くんのファンクラ会員1号の特権として」

「それずるい! 私だって2号なんだから、変わんないじゃん。一緒に見るんだよ」

「はは、ありがとね」


 後ろから歩いて来るのは星名くんだ。
 女の子といる。後ろ姿でも、私だと分かるのかな。

 とても気まずい。気付いて欲しいような、欲しくないような。


「……結奈ちゃん、大丈夫?」


 比茉里ちゃんの声で、現実へ引き戻された。意識がボーッとしていたらしい。


「えっと、ごめんね。何だったかな?」


 振り向く彼女に釣られて、私も背後へ視線を送りそうになる。


「あれ、鹿島さん?」

 名前を呼ばれたことで妙に胸が弾んでいる。女の子といるところを見たくないと思っていたのに。