藤波くんのことは、もう気にしていないし完全に吹っ切れた。
 まだそう言い切れないけど、自分なりに気持ちの整理は出来たつもり。

 藤波くんの姿を見かけると辛くて、しばらく立ち直れないかもしれないと思った。
 でも、私の心は意外と弱くはなかったらしい。

 比茉里ちゃんや周さん、それから星名くんの存在があったから。前を向かなければ、と思えたの。

 心境の変化は日常生活にも影響を及ぼすらしい。

 右から左だった地理の授業は、先生の言葉がよく聞こえるようになったし、苦手な数学の授業も面白く感じる。

 それは今、毎日が楽しいからなのかもしれない。


「ええーっ! もう最後の1個売れちゃったの?」

「ごめんねぇ。カリふわメロンパンは人気だから。また来週買いに来てな」


 購買のおばさんが、あんぱんみたいな頬をぷくっと上げて笑った。

 毎週木曜日に限定販売されるカリふわメロンパンを巡って、生徒たちの争奪戦が繰り広げられる。
 まだ1回しか買えたことがないけど、ほんのり甘味があって美味しいの。


「今日は買えると思ったんだけどなぁ」

「2年の時は、まだここまで広まってなかったのにね。人気出るのも分かるよ」

「ほんと噂は怖いよ。すぐ広がるから」


 ーーほら、あの子じゃない?例の噂の。

 ーーああ、そうそう。やっぱり、大したことないねぇ。

 購買から裏庭へ続く道。どこからか、不穏な風が流れてくる。