流れ出すような人の波。電車から降りてくる空高生たち。
 少し前を歩く彼が誰かを探すように振り返る。彷徨う視線のなか、目が合った。


「鹿島さん、おはよう」

「……おはよう」


 ふわっと空から光が現れるような笑顔。
 さりげなく手を振って、星名くんは友達と歩いていく。その後ろ姿を眺めながら、私も小さく手を振り返した。


「なーんか怪しい。いつの間に星名くんと挨拶する関係になったの?」


 腕に絡み付く比茉里ちゃんが、ニヤついた魔女のような顔をしている。

 にょきにょきとツノを2本生やした小悪魔と言った方がいいのかな。とても楽しそうで、何かを企むような笑み。


「星名くんは優しいから、きっと気を使ってくれてるの」

「ふーん? でも、それだけの顔には見えないけどなぁ」

「そう、かな?」


 毎日ではないけど、電車が同じ日は挨拶を交わすようになった。
 廊下や階段で会った時も話しかけてくれたり、嘘みたいに接点が増えて。

 満更でもない顔をしていたのかな。私の顔を覗き込んで、比茉里ちゃんは安心するような表情をした。
 まるでお母さんが子どもを見てする時みたいな。


「あの時はどうなるかと思ったけど、元気戻ってホッとしてる」