描くとは……、風景や人なんかをモデルにして絵を描くことだよね?

 絵のモデル……、私が星名くんに誘われたの? とんでもなく平凡な素材なのにどうして。


「桜みたいになる(ほお)も、キレイ」

 ど、ど、どういう意味!?
 頬の桜から火が出る勢い。褒められることなんて滅多にないから、素直に嬉しい。

 でもこういう時、どう反応したらいいのか分からなくて、沈黙になる。


「あの、別に変な意味はなくて。思った事、つい言っちゃったんだけど。気分悪くしてたらごめんね」

「そ、そんな……! ただ、なんて言ったら良いのか……ごめんなさい」


 歯切れの悪い言い方。もっと上手く話せるようになりたい。

 ふと合った視線を外す星名くんの頬が、ほのかに赤みを帯びていた。

 これは、照れているの?
 さっきまでと明らかに違う反応。恥ずかしいと思っていたのは、私だけじゃなかったんだ。


「モデル、引き受けてくれるかな?」

「は、はい。あの、頑張ります」

「鹿島さんが頑張っちゃうんだ」


 深々と下げた頭を上げるタイミングを逃した。また変なことを言って墓穴を掘っている。

 ほんとに恥ずかしい。
 でも、包み込んでくれるような笑い声で、自然と顔が戻っていく。

 目の前にいる彼は天使だろうか。そんな錯覚さえ生まれる。


 ーー結奈ちゃんが好きだから。ずっと、待ってる。


 また、想像の声がした。駅の時とは違う。今胸を占めるのは、勇気をくれる甘くてみずみずしい音色。

 この幻聴の意味を、まだ私は何も知らなかった。