どのくらい瞼を閉じていたのだろう。
 境目がくっ付いて離れなくなるほど、長い時間こうしている気がする。


「…………奈っ、……結奈!」


 誰かの呼びかけで、石のように重い瞼が開いていく。自然にと言うよりは、起きなければという意識的なものが働いた。

 ぼんやりと映る景色は、見覚えのない場所。白い部屋で、誰かが必死に話し掛けている。


「結奈、分かる? すみません、目覚ましました。はい、お願いします」


 曖昧だった輪郭が鮮明になってきた。慌てた様子で話しているのは、お母さんだ。
 就職して一人暮らしをしていたから、久しぶりに顔を見た。

 私の手を握りながら、安堵の涙を溜めている。家ではなさそうだし、ここはどこだろう。

 口を開いたとたん、誰かの足音が近付いてきて、白衣の人が顔を覗き込んだ。何かを確認するように、私の頬に触り下瞼を下げる。

 どうやら病院にいるらしい。

 しばらくして、少しずつ思い出して来た。

 待ち合わせをして、美しい花と鯉が泳ぐ池を見て、神社を訪れた。そのあと、トラックが迫って来て……。

 事故に遭ってから、約3日間眠っていたと聞かされた。命に別状はなく、手足も動かせる。


 ーーただ。