約束の当日。珍しくスマホのアラームが鳴るより先に目が覚めた。

 白のレースワンピースにレースアップのショートブーツ。耳元には白い花のピアスとビジューのバレッタを身に付けて、待ち合わせ場所である鬼百(なきり)駅へ向かった。


『日本へ帰ったら、一番最初に結奈ちゃんと会いたくて』


 帰国した直後、電話の向こうから聴こえた声に目の前が(かす)んだ。スマホを持つ手が震えて、やっと会えると胸が(なげ)いたのを思い出した。


 時計を見て、小さなため息が出る。約束の時間までまだ15分ほどある。少し早く来すぎたかな。

 駅を背にして、行き交う人をぼんやり眺めながら待つ時間は、期待と緊張で胸が押しつぶされそうだ。


「久しぶりだね。待たせちゃった?」


 視線の先に靴が見えて、躊躇(ちゅうちょ)した顔を緩やかに上げる。
 きらきらした髪は少し伸びて、大人びた顔付きになった湊くんがいた。


「ずっと、待ってたよ。なんか、まだ夢見てるみたい。湊くんが……ここにいる」

「僕も、ずっと会いたかったよ。ありがとう、待っててくれて」


 指先から伝わる温もりはあの頃と変わらなくて、離れていた3年分の気持ちが胸に浸透していく。

 空白の時間を埋めるように、たくさん話しをした。アメリカでの生活や、勤めているカフェのこと。
 たまの電話では知り得なかった日々を凝縮して、会話に花が咲いていく。