薄暗くて雰囲気の良いカフェバー。小さなソファーがあって、先に着いていた比茉里ちゃんがこっちと手を振る。

 音羽大学へ通う彼女とは、仕事帰りによく会う。頻繁に連絡を取り合っているわけではないけれど、月に一度は必ずどちらかが食事に誘って近状を話している。


「それで明日だっけ? 星名くん、日本に帰って来んの」


 生ハムときのこのバジルパスタをフォークにぐるぐると巻きながら、比茉里ちゃんが話題を変えた。


「うん、夜の便で着くみたい」

「空港まで迎えに行くの?」

「ううん、仕事あるから。来週会う約束してる」

「3年ぶりかー。変わってるといいね」


 言いながら彼女はフルーツカクテルを二口ほど飲む。まだグラスには3分の2以上残っているというのに、彼女の頬から鎖骨に至るまで真っ赤になっていた。


「湊くんはそのままでいて欲しい気もする」

「そうじゃなくて、未来が。良い方へ変わってるといいのになーって」

「……そうだね。ずっと、笑っていれたらいいな」


 高校3年の時に湧き上がっていた未来の声は、卒業と共に聴こえなくなった。
 あの時に選択した全てが、今にどう繋がっているのか確認する術はない。

 でも後悔はしていない。
 彼を想っていた日々を、これから一緒に過ごしていく時間を白紙にしなかったこと。