ーー3年後の春。
 街には美しい青葉が顔を見せ始めたけど、まだ桜が狂い咲く地域もあるらしい。

 楠木(くすのき)駅近くにあるカフェにパティシエとして就職して2年目。22歳になる年を迎え、忙しない毎日を送っている。

 時計の針が20時を指す。『Blue&Lion』と書かれた店前に、closeと木目の看板が下げられた。

 スタッフルームの机に鏡を置き、カールアイロンで髪をふわりと巻いて。ワンピース姿を姿見の前でチェックしつつ、ピンクベージュの口紅を塗る。


「デート?」

 結んでいた髪をほどきながら、先輩が鏡の前でフェイスパウダーをはたき始めた。


「高校の友達と会うことになってるんです」

「高校って響き懐かしい。あれ、結奈ちゃん明日早番だよね? 若いっていいなぁ」

 もう無理だわ、なんて嘆きながら先輩は大きなため息を吐く。


「先輩と3つしか変わりませんよ?」

「ぜーんぜん違う! 25歳はお肌の曲がり角って言うけど、あれ本当だから! 化粧のノリの違いが凄まじい。鏡見るのマジでホラーだよ」

「先輩、キレイですよ。あっ、待たせちゃうので、お先に失礼します」


 軽く頭を下げて、鏡を覗き込んだまま手を上げる先輩から目を離すとスタッフルームを出た。