「専門学校でも頑張ってね」

「ありがとう。寂しいけど……アメリカ行っても、笑ってる湊くんでいてね」

「うん、また電話するよ」


 私は製菓を学ぶ学校へ、湊くんは悩み続けていたデザインの道へ進むことを決めた。
 この選択が未来へどう繋がるかは分からないけど、目の前にある笑顔は本物だ。


「結奈ちゃんに、話しておきたいことがあるんだ。聞いてくれる?」


 うなずく私の頭上から、ひとひらの花びらが舞い落ちる。


「未来の僕らが別れた理由は、心のすれ違いじゃいないよ。ずっと、僕の中には結奈ちゃんがいた。それなのに、僕は未来に(とら)われてばかりで。一緒にいた過去まで失くそうとしてるって気付いたんだ」


 桜の花びらが散るたびに、空が泣いているように感じた。陽だまりのなかで微笑むような幸せの涙。


「もう自分に嘘を付くのはやめるよ。未来に怯えるのは、終わりにする」


 今が未来を作っていくこと。結奈ちゃんが教えてくれたから。
 彼の指先が触れた頬から、桜色へと色付いていく。


「だから、待っててくれないかな」

「……はい。ずっと、待ってるね」


 ゆっくり閉じてゆく空の色。
 初めて唇に訪れた春は、優しい桜の匂いがした。