純白の世界が溶けて、新たな命が芽生える季節。何枚も重ねていた衣服は薄くなり、春の匂いを感じるようになった。

 それぞれの進む道が決まって、旅立つ日を迎えた。胸に付いた花は、高校3年間を振り返る象徴となって、卒業生の顔を華やかに彩っている。

 式が終わり、校庭へ出てきた生徒たちが別れを惜しむ。


「結奈ちゃーん! うう、ほんとに最後なんだね。やだよ、卒業したくないー!」

「わたしもだよ。もう一緒にいれないって思ったら、すごく寂しくて」


 赤く潤んだ目を見て、比茉里ちゃんが抱きついてくる。さらに涙腺が緩んだところで、マジックテープのように引き剥がされた。


「アンタたち、何してるのよ。早く写真撮るわよ」

「樹に頼んであるから。ほーら、噂をすれば」


 強制的に連れられて、瀬崎さんの隣へ立つ。腕を組まれた拍子に、海の光景を思い出した。

 白い浜辺を歩いた日。初めて彼女から褒められて、湊くんから友達でいたいと言われたこと。

 シャッターを切る音がする度に表情を作って停止する。
 過ぎ去った日々は、写真のように静止した一場面になってしまうけど、私たちはこの瞬間も未来へ歩き続けている。


「湊、あっちにいるから。呼んできて」


 人のいない裏庭。ソメイヨシノが鮮やかに咲く下に、彼は立っていた。
 風がそよ吹くたび、色素の薄い髪がなびいて、太陽のようにきらきらしている。


「卒業おめでとう」

「結奈ちゃんも、おめでとう」


 笑い合う顔には、喜びと寂しさ、そしてそれぞれの決意が映されている。