まさか、こんな展開になるなんて思いもしなかった。胸の高鳴りが強まるけれど、隣に立つ湊くんは浮かない顔をしている。

 まるで2人きりになったことが、不運だと言わんばかりに。

 小さな箱の中は空気が薄い。緊張と寒さで酸素不足になりそう。

 向かい合わせに座りながら、お互いイルミネーションを眺めている。しばらく続く沈黙を、どちらも破ろうとしない。

 両思いだと知ったあの朝から、2人きりになるのは初めてで、何を話したらいいのか分からなくなった。
 こんなに近くにいるのに、埋められない距離。


「そっち、行ってもいい?」


 先に口を開いたのは、湊くんだった。小さく揺れた観覧車は、隣に座る彼の重みで少し傾く。


「寒いね」


 湊くんがそっと私の手に触れた。絡み合う指の隙間から幸せがこぼれてしまう気がして、握る手に少しだけ力を入れる。
 そうすると、キュッと反応が返って来て、胸の奥が狭くなった。


「……あったかいね」


 熱を帯びた指先が、湊くんの温度でさらに溶けていく。想いは痛いほど浸透してくるのに、壊れゆく未来が訪れないよう、互いの心は硬く鍵を掛けている。

 いけないことをしている気分になって、心臓が落ち着かない。

 伏し目がちの目が触れ合って、ゆっくり影が落ちてくる。
 どうしよう。強く瞑《つむ》った瞼《まぶた》と、繋いだ手が震えた。


「ごめん」

 唇の気配を残したまま、彼は体を離した。不安な気持ちが伝わってしまったんだ。
 もっと近付きたい思いと、これ以上踏み込んではならない狭間《はざま》で揺れている。


「今だけ、いいかな。夜が僕たちを隠してくれるから」

「……神様に、見つからないといいね」


 体の横でしっかりと繋がる手はそのままで、あとは景色と一緒に落ちていくだけ。