帰りの駅は、いつもより人の気配が少なかった。分厚くなった上着を見かけると、冬が近付いているのだと改めて実感が湧く。

 未だに現実味がないのは、今朝のこと。
 湊くんの好きな人は絵の人で、それは未来のわたし。すなわち湊くんの好きな人は、わたし……と言うことになる。

 それから、瞼へ伝わった柔らかい感触。
 ああ、私ったらなんて大胆なことを!
 あの状況でなぜ目を閉じられたのか。思い出すだけで、鼓動の波に溺れそう。


 少し離れた席から、男女の笑い声が聞こえた。遠退いていた夢の中から、現実へ引き戻されたみたいに落ち着きが降りてくる。

 両思いだと分かったのに嬉しさが半減しているのは、付き合っていずれ別れると知り得てしまったから。
 こんなに好きなのに、別れるなんて考えられないよ。

 大きな木から伸びる枝。どの道を進むか選んでも、同じ花へ辿り着く。
 桜の木には桜の花しか咲かないように、未来は全て決まっているのかな。


「鹿島ちゃん、一緒に帰ろ?」


 ひょこっと顔を出した周さんが、返事をするより先に隣へ腰を下ろした。とんと肩が当たって、座席の狭さを再認識する。

 周さんと2人で帰るのは初めてのことで、妙な緊張感があった。もしかしたら、彼女も湊くんのことが好きかもしれないから。


「星名くんと仲直りしたの?」

「えっ、うん。気まずくなってたこと知ってたの?」

「最近、ずっと元気なかったから。星名くん絡みだろうなって」

「そんなに、分かりやすかった?」

「もうね、顔に書いてあった」


 冗談混じりで笑いながら話す彼女は、何かを取り繕うような顔をしている。
 学校での姿が決して不自然というわけではなく、彼女の内のひとつなんだろう。