「……どうして? 私の隣には、他の人がいるって。これから出会う人と、幸せになってって……言ってたのに」


 放心とした瞳の奥から涙が押し寄せてくる。唇を噛み締めて、はらり。真珠の玉が一粒落ちた。

 とたんに、目の前が真っ暗になった。
 柔軟剤の爽やかな香りと、包み込むような感触が伝わってくる。

 ようやく、彼の腕の中にいると気付いた。


「ごめんね、つらい想いさせて。友達でいるのが難しいなら、嫌いになってくれたら、忘れてくれたら。お互いのためには、その方がいいって勝手に決め付けてた」


 震える呼吸、波打つ胸の音が伝わってくる。優しい彼の眼差しに、私の鼓動が呑み込まれていく。


「僕たち……別れることになるんだ」


 ためらうような言い方。伏せられてはいるけど、「付き合っても」が前に付くことは、彼の空気感から読み取れた。


「……もし、私たちが違うことをしたら。湊くんの見てる未来、変わるかもしれないよ?」

「変わらないよ。変えられない。今までがそうだったように、何も。どれを選択しても、必ず見た未来になるよ」