「寂しいって、言ってる? 人魚たち」

「あ、あの、すみません……」


 続ける言葉が見つからない。一生懸命作り上げた作品に失礼なことを言ったかもしれない。


「鹿島さんなら、分かってくれる気がしてた」

 深い青色を撫でるように触って、星名くんが微笑む。


「希望を持てば絶望も付いてくるし、絶望の近くには必ず希望がいる。幸せそうに見える世界でも違うことだってある。もちろん、その逆もね」


 絶望だなんて、似合わない単語だと思った。
 こんなに素敵で人気者の星名くんには希望の方が合っている。


「そういえば、コンテスト1次審査通過したんだってね。おめでとう」


 筆を伝って流れる水が、綺麗な空色と藤色に染まっていく様子を見つめながら、ふと疑問符が浮かぶ。

 どうして星名くんがコンテストのことを知ってるんだろう。


「アイデア探してたみたいだけど、鹿島さんもやってるの?」


 料理部の誰かに聞いたのかもしれない。私と違って、交友関係が広そうだから。

 洗っている水が桜色へ変わった。薄く色づく花のようで、キレイ。


「何か、浮かぶかなって……校舎や中庭を」

 語尾が出ない。気を紛らわすために水道水を見ているのに、お構いなしで緊張は流れてくる。


「そうゆうのって意外なところに落ちてるもんだよね」

「……はい」


 色素の薄い髪色。下向き加減の長い睫毛(まつげ)。すっと通った鼻筋に綺麗な形の唇。

 こんなに近くで見たのは初めてだけど、星名くんて、こんな絵に描いたような顔をしてたんだ。

 ずっと藤波くんばかり目で追っていたから、知らなかった。