「あー、やなもん見ちゃった。目の消毒、消毒」


 足組みをして窓の外を覗く比茉里(ひまり)ちゃんが、ぷいっと視線をノートへ移す。

 校庭から生徒たちの賑わう声が聞こえてきた。次に体育授業のあるクラスが出て来たのだ。
 比茉里ちゃんを不機嫌にさせた正体が、いた。

 藤波(ふじなみ)宗汰(そうた)

 黒い前髪が切れ長の目を隠して、少し近寄り難い雰囲気を醸し出している。


結奈(ゆな)ちゃんも、見ない方がいいよー。アイツは猛毒だからさ」

「えっ、見てないよ」


 白い体操着へ向けていた眼差しを、慌ててノートへ戻す。少しだけ物足りない顔をして。

 高校生になって、初めて言葉を交わした男子が藤波くんだった。
 1年の時に同じクラスになってしばらく、彼は後ろの席に座っていた。

 まわってきた伝言を回すだけの会話だったけど、とても緊張してドキドキしたことを今でも鮮明に覚えている。

 いつも気付くと目で追っていて、密かにずっと憧れだったりする。


「ああー、浄化された。2組もいて助かった。悪いこと言わないからさ、藤波はやめた方がいいよ?」

「……えっ、ちが……」

「ちが?」

「……うん。そうだね」


 比茉里ちゃんとは1年生からの付き合いで、一番仲良が良い親友。

 そして唯一、私が藤波くんの事を気になっていることを知っている存在。